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アラビアの夜の種族

2010年12月08日 00:57

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はじめに明記するけれども、これは僕のオリジナルではない。The Arabian Nightbreedsの英訳(無署名、発行所不明)を底本にして、出来る限り粉飾的な日本語化を意図した。おおかたの日本人がイスラームの世界になじみが薄いであろう現実に配慮して、しばしば訳注を挿入したけれども、それが逆効果となって口やかましいと感じられなければいいなと思う。ーー以下略


ナポレオン率いるフランス軍による侵攻が目前に迫ってきているエジプト。フランス軍が持つ近代兵器の脅威を知り、国の命運を案ずるイスマーイール・ベイ(知事)に、執事アイユーブはとある術計を持ちかける。アイユーブが秘密裏に追い求めていた稀書『災厄の書』を敵軍の総大将ナポレオンに献上し、その本の魔力によってフランス軍を破滅させるというものだ。ほかに打つ手を持たない イスマーイール ・ベイは信頼するアユーブにすがるしかなく、その計画を彼に一任する。

カイロの片隅の屋敷で、アイユーブが招いた夜の種族は毎晩譚り、それは書生とその弟子の手によって書にしたためられる。読むものを狂気に誘う呪われた本として。

語り部ズームルッドによって毎晩少しずつ紡がれる、1000年前の醜い稀代の妖術師アーダム、最強の魔力を求めるアルビノのファラー、盗賊として育った王子サフィアーンの物語。交わることがないように思えた三人の運命はやがて絡み合い、聞き手はどこまでも物語に引き込まれていく。


ベイ達の陰謀が渦巻く現実世界(エジプト)と、語り部の物語の二重構造を持つこの『アラビアの夜の種族』の日本語訳を手がけたのは古川日出男である。訳者あとがきにて、アラビア半島の本屋にて英語版の『アラビアの夜の種族』に出会い、自分が訳するしかないと思った経緯が書き連ねてある。また、作者不明の原本の歴史的背景と、それがいかに補筆と改訂を重ねられ各国で翻訳されてきたかという経緯が興味深く書かれている。そして物語を拡散させていく意味も。是非最後まで読んでみてほしい。



!!!!!!!!!!!!!!! 以下ネタバレ !!!!!!!!!!!!!!!!!
The Arabian Nightbreedsの日本語版、これは嘘っぱちである。いかにも原作があるかのごとく訳註がちりばめられているが、偽装工作に他ならない。冒頭の「はじめに~」と最後の「仕事場にて」「文庫版附記」も作り物であるということを考えれば、この作品は二重ではなく三重の構造を持ったフィクションということになる。

砕けた独特の台詞回しといい、しつこいくらいの反復表現といい、本編は作者色満開である。以前『ベルカ、吠えないのか』を読んで、(否定的な意味でなく)悪乗りする作家だなという印象を持っていたのだが、まさにその真骨頂である。ほんとにもう、やりたい放題やってんなーっていう感じ。文体にクセがあるので、万人受けする作品ではないと思うのだけど、文庫本にして全三巻のボリュームも苦もなく読めてしまう。さすがに「読む者を虜にし破滅に導く物語」という設定なだけはある(それにしてもそんな設定の物語を書いてしまうとは・・・)。個人的にはアーダムの物語に一番引き込まれた(蛇神ジンニーアって藤崎竜版妲己をあっけらかんにエロくした感じだよね)。中盤ちょっとぐだぐだな感じだったかもだが、最後は年代記の中の戦いも、エジプトの危機もきりきりと引き絞られて、一気に臨界点を突破する。


日本推理作家協会賞長編賞、日本SF大賞受賞、「10年のミステリがベストテン(ミステリチャンネル)」で一位とのことだが、こういうのってミステリなんだろうか。SFでもないと思うし。普通にファンタジーでいいと思うんだけど、まあ、ジャンルに縛られないエンターテイメント性の高いフィクションということで。作者が仕掛けた大嘘を楽しんで欲しい。
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