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チグリスとユーフラテス:惑星でただ一人 最後の子供の悲しき復讐

2004年08月30日 00:00

「チグリスとユーフラテス」の余韻に浸っている所為で、いつも以上に私の文体が新井素子の影響下におかれてしまったな。
チグリスとユーフラテス チグリスとユーフラテス
新井 素子 (1999/02)
集英社

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友人に先日私は「似非新井素子ファンだ」と言われてしまった。私としたことが、第二十回日本SF大賞を受賞した新井素子の長編小説「チグリスとユーフラテス」の登場人物の名前を失念していたのだ。読んだの二年前の夏だし、っていうのは言い訳にはならない。おまけに数日前に「チグリスとユーフラテス」の文庫版をブックオフで購入していたということが、悔しさに拍車をかけた。ということで、私は意地でも「チグリスとユーフラテス」を読み直したかったのだ。

それにしても新井素子は。ほんとに恐ろしい設定を作り上げる。よくこんなに不気味なことを思いつく。ちょっと想像してみるだけで背筋に冷たいものが走る。

以下あらすじとネタバレを含む予定。そういうのを気にしない人は続きをどうぞ。
とある未来の時代。人類は惑星間移民に着手する。要するに地球から何十光年という遠い惑星に移民し、そこに新たなる人類の社会を作り上げようとするのだ。しかし、そのころの地球の技術ではまだ光速の壁がこえられなくて、惑星移民は宇宙船のクルーの半生をかけた事業であった。キャプテン・リュウイチとレイディ・アカリら35人のクルーは、ナインと名づけられたその惑星に無事たどり着き、後世のナインで伝説となった…。

ナインの歴史が始まってから、400年。最初爆発的に人口を増やし、繁栄していった移民惑星ナインだが、破滅の影も驚くほど早く忍び寄ってきていた。どういうわけか、子供が生まれなくなってきてしまったのだ。住民の数は激減してゆき、ますます子供が生まれなくなる。そして。ついに。「最後の子供」が生まれてしまったのだった。

最後の子供である、ルナ。最後の子供であるがゆえに、人々の最後の希望だったがゆえに、ルナは子供であることを余儀なくされる。社会に、いつまで経っても子供であることを強要させられる。そんな、ルナ。周りの大人たちがどんどん年老いて、死んでゆく中、それでも子供であり続けるルナ。そして、ついには、ルナは一人になってしまう。

一人きりになってしまったルナは。コールド・スリープしていた人々を一人ずつ起こしだす。ナインの歴史をさかのぼるようにして起こされる、その時代時代の特権階級に属する女性たち。マリア・D、ダイアナ・B、トモミ・セキグチ・ナイン、そして、移民の母ともナインの女神とも謳われたレイディ・アカリ…。

ルナの目的は復讐だった。最後の子供として生まれてきてしまったルナは、自分をそのような不幸な境遇に陥れた社会を憎んでいた。最後の子供としか見られず、ルナ自身の生き方ができなかったことを。結局は意味のなかった己の人生を。それを見せ付けてやりたかったのだ、ナインの先人たちに。そして。彼女らの人生の意味をこごとく否定しようとしたのだった。自分の人生の意味を否定されてきたように。コールド・スリープから目覚めた彼女らは、限られた時間の中、ルナとかかわっていく。

…。と、まあ以上が大体のあらすじである。

それにしても。ルナという最後の子供は、とんでもないキャラクターである。自分のことを「ルナちゃん」って呼ぶし。しゃべり方は非常に幼稚だし。フリフリでリボンだらけの洋服を着るし。ワニのぬいぐるみをずっと放さないし。それなのに。実質的には70歳以上の老婆なのだ。これは、恐ろしい。これは、気持ち悪い。想像するのもためらうほどだ。そして、同時に。とてつもなく、哀しい。

非常に深く、鋭く、人間の生きる意味を問いかけるルナ。復讐の果てにルナは救われるのだろうか…。


新井素子が「チグリスとユーフラテス」を書き始める前に、最初に浮かんだ情景が、エンディングのシーンだという。このラストシーンは、素敵だ。いや、素敵という言葉では言い表せないほど、なにかこみ上げてくるものがある。美しく、物悲しく、静かで、穏やかで、それでいて、救いがあって。思わず涙が…。



二年ぶりだけど、読み返してみてかなり新鮮だった。きっかけをつくってくれた友人に感謝。

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